名古屋高裁金沢支部 逆転勝訴=原判決を取り消す。

最高裁判所は上告人兼申立人(株富山技研)に対して

第1 主文

 1 本件上告を棄却する

 2 本件を上告審として受理しない。

 3 上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。

第2 理由

 1 上告について

   民事事件について最高裁判所に上告することが許されるのが民訴法

   312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告の理由は、

   理由の不備をいうが、その事実は事実誤認又は単なる法令違反を主張

   するものであって、明らかに上記各項に規定する自由に該当しない。

 2 上告受理申立について

   本件申立の理由によれば、本件は、民訴法318条1項による受理すべ

   きものとは認められない。

 

  令和2年10月6日   最高裁判所第三小法廷

                裁判所書記官 新川高広

 

 

◎ ===

私と被控訴人(株式会社 富山技研)に係る令和2年3月25日名古屋高裁金沢支部の判決言渡しでは、1 原判決を取り消す。2 控訴人が被控訴人の株式3200株を有する株主であることを確認する。3 訴訟費用は、第1、第2審を通じて、被控訴人の負担とする。=====

名古屋高等裁判所金沢支部平成31年(ネ)第29号(令和2年3月25日判決)

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所は、控訴人が本件株式を有する株主であることの確認を求める控訴人の請求は理由があるものと判断する。その理由は、次のとおりである。

2 争点1(被控訴人主張の合意の有無)について

(1)被控訴人は、被控訴人主張の合意が成立したと主張し、被控訴人代表者の原審における尋問結果及び陳述書(乙8)中にはこれに沿う部分がある。証拠(乙2ないし5(枝番含む)、原審における控訴人本人、被控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が、被控訴人代表者に対し、本件株式を担保にした金員の借り入れを申し込んだこと、被控訴人においては、少なくとも平成20年当時から、被控訴人株式を取得する場合には、一律1株5000円で取得してきており、※※※※や※※※※がその保有する被控訴人株式を売却した際も5000円とされていたこと、本件株式を1株5000円で評価すると1600万円となるところ、被控訴人代表者は控訴人に対しても1600万円なら貸すことができる旨を回答したこと、控訴人も被控訴人株式につて被控訴人との間では1株5000円で取引されていることを認識していたこと、以上の事実が認められるものの、本件譲渡担保契約に係る契約書(甲1)には、被控訴人主張の合意の存在をうかがわせるような記載はない上(株式の評価に関する記載は全くなく、不精算特約についても、被控訴人が一部弁済した場合や利息・損害金が生じた場合を勘案すると、1株5000円との合意が前提とされているとはいえない。)、被控訴人代表者は、不精算特約の具体的な意味内容について十分理解できていないこと(原審における被控訴人代表者の尋問調書11・12頁)に照らすと、本件譲渡担保契約を締結する時点で、被控訴人が控訴人に対して被控訴人主張の合意の意味内容を説明していたとは認められず、譲渡担保契約の目的が担保目的の所有権を取得すること自体ではなく、それが有する金銭的価値に着目し、その価値の実現によって自己の債権の排他的満足を得ることにあることにも照らすと、被控訴人主張の合意に沿う被控訴人代表者の上記供述部分を証拠として採用することはできず、他に被控訴人主張の合意の成立を認めるに足りる的確な証拠はない。

(2)したがって、被控訴人主張の合意の成立は認められない。もっとも、本件譲渡担保契約において不精算特約が成立したという限度では、控訴人も特に争っていないので、以下、被控訴人主張の合意の成立は認められないとの前提のもとで、不精算特約の有効性について更に検討することとする。

3 争点2(不精算特約の有効性について)

(1)不動産の譲渡担保権者は、債務者が被担保債務の履行を遅滞したときは、目的不動産を適正に評価することによって清算金を債務者に支払うことを要し、譲渡担保権者が債権者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正価格が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、譲渡担保権者が目的不動産の所有権を確定的に取得することはできないところ(昭和62年判決参照)、譲渡担保契約の目的が担保目的物の所有権を取得すること自体ではなく、それを有する金銭的価値に着目し、その価値の実現によって自己の債権の排他的満足を得ることにあることに照らすと、この理は株式譲渡担保の場合にも基本的に妥当するものと解すべきである。

 これに対して被控訴人は、非上場株式には流通性がなく確たる評価方法が確立されていないなどとして不動産譲渡担保の場合とは異なる旨を主張するが、不動産であってもその評価にはさまざまな手法があり、その額が一義的に定まるものではなく、適切な取引事例が得られない不動産もあり、非上場株式の場合であっても基本的な考え方は不動産の場合と異なるところはないというべきであるから、被控訴人の上記主張は採用できない。

 したがって、譲渡担保契約の目的に照らすと、不精算特約がなされたからといって、控訴人に対する清算金の支払若しくはその提供義務、又は本件株式の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知義務を免れることにならず、被控訴人主張の合意が認められない以上、上記義務をしない限り、譲渡担保権者が目的不動産の所有権を確定的に取得することはできないというべきである。

(2)そして、本件通知(上記補正後の前提事実(3))には、適正評価額が債務の額を上回らない旨の記載はないが、上記2(1)で認定したとおり、譲渡担保契約を締結する時点で、本件貸金額は、本件株式を1株5000円と評価して算定されたものであり、本件通知は、譲渡担保権の行使時においても本件株式の評価額が1株5000円であり、本件株式の適正評価額が本件貸金の債務額を上回らない旨の通知をも含むものと解する余地もないわけではないので、被控訴人主張の1株5000円が適正評価額といえるかについても検討する。

 被控訴人は、従前の取引実績から1株を5000円とする評価が適正である旨主張し、※※※※税理士作成の書面(乙9)を提出する。

 しかしながら、上記2(1)で認定した取引実績は、被控訴人において被控訴人株式を買い取るのに1株5000円とするもの以外には応じていなかったことや、特定の株主が1株5000円で売却した事例があることを意味するにとどまり、被控訴人において被控訴人株式の客観的な価値に着目して評価額を決定したとはうかがわれないから、取引実績の金額をもって直ちに適正評価額であるとは認め難い。

 そして、株式の評価には様々な手法があり、具体的な事案の下で、妥当な評価方式が採用されるべきところ、本件の場合には、被控訴人株式の1株当たりの評価額は、純資産価額方式では10万3269円、類似業種比準方式では3万8681円と算定されること(甲11,12)、被控訴人の純資産額は、本件譲渡担保契約締結時の直前の平成27年3月期には約24億3231万円であったのに対し、被控訴人による本件譲渡担保権の行使時の直前の平成29年3月期には約28億2964万円と4億円近く増加しており、また、被控訴人が1株5000円で買い取った平成20年に近い平成21年3月期の被控訴人の純資産額約14億2092万円の倍近くになっていること(甲21,22,23)、被控訴人の株主構成では、自己株式が半分近く占めている上、いわゆる支配株主もいないこと(上記補正後の前提事実(1))、少数株式の譲渡で、会社支配権の変動を伴うものではない本件の場合に、評価額が低くなりやすいとされる財産評価基本通達の配当還元方式によっても、被控訴人株式の1株当たり評価額は6400円程度(本件株式に換算すると2048万円となり、本件貸金の元本額1600万円を448万円上回るものとなる。)と算定されること(甲11,12,乙9)、以上の事実を指摘できる。

 これからすると、本件譲渡担保権の行使時における本件株式の適正評価額が被控訴人主張の1株5000円であるとは認められないというべきである。

  なお、被控訴人は、控訴人が申し立てた本件株式の評価額に関する鑑定について、不必要との証拠意見を述べ、上記のとおり取引実績以外には本件株式の適正価格に係る具体的な立証をせず、他に本件株式の適正評価額が本件貸金額1600万円を上回るものでない場合に当たることを認めるに足りる証拠もない。

(3)そうすると、被控訴人が発出した本件通知は、本件株式の適正評価額が本件貸金の債務額を上回らない旨の通知とは言えず、被控訴人は本株式を確定的に自己の所有に帰せしめたとは認められず、控訴人は本件譲渡担保契約において保留された本件株式に係る株主としての地位を喪失したとは認められない。したがって、控訴人の請求には理由があるというべきである。

  4 よって、本件控訴は理由があるから、これと異なる原判決を取消した上で控訴人の請求を認容することとして、主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所金沢支部第1部

裁判長裁判管   田 中 寿 生

裁判官      橋 本  修

裁判官      峯 金 容 子

裁判所書記官   寺 口 智 子